読者の方に2008-06-26 Thu 17:52
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71 第五章 旅立ちの序曲(プレリュード)382008-06-25 Wed 06:14
二月ほど休載します
ゆりが後に、里美の為に作詞した曲である。 ≪綿毛の恋≫ その日、あたしは貴方に出会いました。 タンポポの花咲く陽炎のの中で。 そよ風と、若葉の香りと、貴方の光る汗 とても爽やかな、出会いでした。 ひたむきな走る姿に、頑張ってと 思わず声をかけていました。 にっこり笑う貴方 はにかんで見送る私 そんなすれ違いの出会いでした。 名前も知らない貴方 声もかけられず、うつむく私 そんなあたしにタンポポが話しかける。 それって恋さ、すてきな恋さ 初めての出会いでした。 昼下がり、あたしは野辺に座っていました。 一面の黄金のタンポポの野辺で 蝶と、光る水と、子供達の歓声の中 貴方の夢を見ていました 爽やかに走るあなたを見つめるあたしは 野辺に咲くタンポポの花 地味な目立たないその他大勢 好きよと言えば にこやかに答えてくれるあなた そんな楽しい夢でした そんな夢見るあたしにタンポポが 頑張って、頑張ってと こえかけてくれているようでした。 再びあたしは貴方に出会いました。 タンポポの綿毛舞う野辺で せせらぎと、傾いた陽、きれいな彼女 悲しい悲しい出会いでした 楽しそうに語る二人に、嫉妬が どこからともなく沸き上がってきました 「やあ」と手を挙げる貴方 道を外れて見送る私 悲しい心を抑えて微笑みました。 名前も知らずに終わった恋 そんな私に綿毛が語りかけます。 がんばれよ、又恋があるさ 最後のすれ違いでした。 綿毛の恋、短い春の恋 それははかないはかない恋、風に舞ってゆくあてもない 悲しい少女の思いで、 そんなほのかな遠い思い出でした |
70 第五章 旅立ちの序曲(プレリュード)372008-06-23 Mon 05:56
帰りの車中でゆりはずっと考えていた。自分はどうせすぐに死ぬ運命だ。ならば、自分は里美に後を託すべきなのではないか。
それだけを考えていた。 押し黙ったゆりに、宗像は 「どうしたの、何考えているの?」 そう問いかけた。 里美を後添えにと言えば、宗像は怒り出すだろう。ならば、 「里美さんと3人で暮らさない?」 ゆりはふいに提案した。 すぐにゆりは付け足した。 「無論、今すぐじゃあないの。あたしが動けなくなったら、何としても話し相手が欲しいの。里美さんなら上手くいきそうな気がする。」 宗像は、 「ゆっこ、俺は君を治すって言ったろう。命がけでな。里美の出番はないよ。」 ゆりが治るとは思っていなかった。治るはずのない難病である。宗像がやろうとしているのは確率1%以下の、愚かな挑戦にすぎない。 全知全能をかけて行うゆりの治療に余分な考え事をする暇はないのである。多分、自分はゆりとの数ヶ月の生活で抜け殻になろう。しかも再び、人間としての意志という命を持たない抜け殻になろう。その宗像に里美を愛せというのが無理なのである。 誰もそこが分かっていない。 隣にいるゆり、亡くなった女房の陽子ですらそこは理解できないだろう。 宗像という男、実に不器用なのである。 最初の女房の陽子が亡くなった後、ショックでいかなる女性にも性的な反応を示す事がなかった。唯一、ゆりと出会って初めて性的な反応を示すことが出来たのである。 繊細なのである。人を愛することに全力を遣ってしまい、余力がない宗像である。複数の女を同時に愛することなどできない宗像であった。 ゆりはそれ以上は宗像に何も言わなかった。そして宗像が自分だけに愛を誓ってくれることをうれしくも思っていた。 |
69 第五章 旅立ちの序曲(プレリュード)362008-06-21 Sat 06:01
宗像達を見送ると里美は言った
「お兄ちゃん、もう一度船出して。」 沖に出るまで里美はじっと湊の方を、宗像の去った方角を見つめていた。里美の寂しさは加藤にも十分理解できた。 ゆりが癌だという事を里美に話してやりたかった。しかし宗像はゆりと共に死ぬだろう。 長年過ごした親友の気持ちが分からない加藤ではない。ここはつらくても里美を諦めさせるしか無かった。沖に出て停泊すると加藤は里美に聞いた。 「里美、お前、どうして宗像好きになった?」 里美は悲しそうな眼で加藤を見つめて、そして言った。 「初めて、初めて言うけど、お兄ちゃん、あたしいじめられてたの。」 加藤も初耳だった。明るい里美がいじめにあう、それが信じられなかった。 「宗像さんが、松崎に帰っていた頃、何年前かな、あたしいじめられてたんだ。学校行かないで、一人で山ノ中にいたんだ。そこで宗像さんに会って、いろいろ優しくして貰ったんだ。たぶんね、宗像さんいなかったら、あたし死んでた。宗像さん、あたしを連れて下田まで買い物に行ったり、ご飯食べさせてくれて励ましてくれたの。あのときの事考えると、今生きてるのが不思議。」 加藤はそんなことは全く知らなかった。里美が登校拒否をしていたことすら初耳だった。 「だからかな、好きになっちゃった。それから宗像さん、あたしに携帯渡して、それで悲しいときに連絡取った。あたしが生きていられたのも宗像さんのおかげかな。でも、もうだめだな、あんなきれいな奥さんだもの、あたしの出る幕ないよね。宗像さんにとって、あたしは妹だったんだ。恋人って存在じゃあない。そんなの分かってたよ。でももしかしてって思ってたんだ。」 加藤は宗像のことを恨めしく思った。妹を惚れさせるだけ惚れさせ、それで去っていく、確かに宗像は悪気はない。誰に対しても均等に優しい。その限りない優しさに惚れた知り合いは山のようにいる。しかし、本人にはその気がない、困った友人だった。 加藤は里美に言った。 「里美、そうでもないぞ、宗像の奥さんのゆりさん、実は癌なんだ。だから一年待ってみろよ。ただし、約束してくれ、里美。もしも宗像が死ぬような事があっても、お前は死なないとな。出来るか?」 「お兄ちゃん、あたしは死なないよ。でもあたしの番はないよ。宗像さん、死んじゃうよ、ゆりさん死んだらさ。たぶんね、ゆりさんも止めると思う。でも宗像さんみたいな人はそれじゃあ生きていけないよ。絶対死んじゃう。お兄ちゃんありがとう。でも逆にふんぎりがついた。宗像さん諦めるよ。」 里美は悲しそうにそう言った。そして一言付け足した。 「あたしも癌になりたいな。」 「馬鹿なこと言うんじゃあないよ。」 「あたし、癌になれば宗像さん振り向いてくれる。あの人困った人見捨てられない。でも都合良くなれないな。」 里美は海から夕暮れの松崎を見ていた。 |
68 第五章 旅立ちの序曲(プレリュード)352008-06-20 Fri 06:05
「里美の事か、」
加藤はそう言った。そう言って、一瞬後悔した。宗像の妻がそこにいた。聞かせていい話かどうか分からなかった。 「ゆっこ、言っておくけど、里美さんというのは、この加藤の末の妹で今年21歳になる娘だ。言いにくいが、俺に慕情を持っている。無論、俺にはその気は全くない。でも一途な娘で、この娘がどうするのか全く分からない。いずれ俺とゆっこの結婚ははっきりするだろう。その時に里美君がどうするのかが分かんないんだ。だから加藤に来て貰った。」 ゆりは何もないようなあっけらかんとした口調で言った 「簡単でしょう、あたしが死んだら里美さんを愛してあげればいいわ。」 ゆりは本気とも冗談ともつかない口調で簡単に言った。 「由紀子!」 宗像はものすごい形相で由紀子を睨み、言った。 「言っていい冗談とそうでない冗談があるよ。」 ゆりはその時初めて宗像を怖いと思った。殴られるのではないかという感じさえした。 「ごめんなさい」 ゆりは素直に謝った。それでも心の中では、あたしがいなくなったら里美さんを貰ってほしいと思っていた。つい先日までならそんな気持ちはわき起こらなかっただろう。しかし、今のゆりは宗像に幸せになってほしいと心から思っていた。 「里美を呼び出そう、そしてゆりさんとの事を明らかにしよう。大丈夫、里美だってもう大人だ。いつまでも理解できない訳じゃあないよ。ともかく湊に戻って里美を呼ぼう。」 「加藤、大丈夫なのか?」 宗像は不安だった。 「大丈夫、あいつだって分かるさ。」 加藤は操船して湊に戻った。途中携帯で里美を呼び出した。 里美は湊に来ていた。そして船に宗像を認めて思わずうれしくなったが、隣の女性をみとめて不安な気持ちになった。 里美の不安は的中した。 船で紹介を受けた里美は一応は納得した。 相手は天下のかすみゆりである。かないこなかった。里美は自分の気持ちを押し殺して宗像を祝福した。 |





